[movie]男たちの大和


監督: 佐藤純彌
出演: 反町隆史/中村獅童/渡哲也/鈴木京香/仲代達矢 /松山ケンイチ/蒼井優/長島一茂/奥田瑛二/寺島しのぶほか
日本/2005年/カラー/145分

枕崎で漁師を営む神尾は、ある女性に出会う。戦艦大和の沈んだ海へ行きたいと懇願するその女性は、かつて神尾も搭乗した大和での上官、内田の娘だった。60年前、まだあどけなさの残る特別少年兵だった彼は、大和で戦地へと向かっていたのだ。


全体としてはエンターテイメントとしてみるなら、よくできた映画だったんじゃないかなと思います。偉い人々を中心に持ってくるのではなく、名も無き兵隊たちに焦点をあてているところもよかったですし、まだ幼さを感じさせる少年兵たちが、悲惨な戦争をよく表しているようにも思えました。2時間半という長さを感じさせない魅力もありました。

が、大和乗組員を否定するわけではないのですが、あれは「国を守る」戦争ではなかったはず。映画ではABCD包囲網から解説が始まり、それの打開策として真珠湾攻撃が述べられるのですが、その前に日本は決定的な外交の失策をしているわけです。もちろん当時の日本にだって言い分はあったでしょうし、それを言うならアメリカにもアジアの国々にも言い分はあったでしょう。しかし、別にアメリカが突然に日本を侵略しようとしたわけではなく、その前には世界の国々を巻き込んだ、陣取り合戦があったのは確かなのです。それに戦争という最悪のカードを切ることにしたのは、時の政府であり、それは日本人。感動しながらも、どこかひっかかる気持ち悪さが最後まで続いてて、特にラストシーンが、あまりに戦争を美化しすぎてないか、と私はやや違和感を覚えたのでした。全体として戦争の無意味さ、悲惨さを言いたかったのか、それとも死を賭して我々は日本を守ったのだと言いたかったのか、非常に微妙で、受け取り方によっては戦争美化とも反戦とも取れる映画。現実に即した形にした結果ああなったのかもしれませんが、映画としてはある意味議論が起こる問題作だと思います。

最近、日本の右傾化、戦争ができる国への変化を危惧する記事をあちこちで読みます。この映画を見ながら思い出したのは、

小泉総理改革解説第9回 貧民が増えるほど、挙国一致体制は強化される(森永卓郎)

という記事。ちょうど映画でも出てきますが、父親も戦争で死んだという息子の友人に、母が「じゃあ何故軍隊に?」と聞いたときの答えが「現金収入が無いから」。そう言えば、アメリカでもイラクへ戦争に行く米兵は貧困層が多いという記事もありました。

前に(自分はハト派ではないと前提した上で)塩爺が、「福田さんとか、やはり戦争体験があるのでしょう。だからハト派ですね」と言ってたことを思い出します。昨日笑い合った、喧嘩したすぐ隣の友人が、あるいは自分が無差別に殺される恐怖、そういう体験のある政治家は減っているし、もちろん我々も頭ではわかっていても、実感としては薄いわけですよね。そう言う意味では、こういうリアルな映画が出来たことは評価できるのではないかと思います。が、一方で殺されるばかりでなく、戦争は相手を殺すものです。撃った先にいる米軍戦闘機には、やはり同じように国に送り込まれた若者たちが乗っている。その視点が欠けてるところが不満。

映画を見るまえに、「正しい戦争はない。戦争をしない勇気を持つべき」ということを思い出してから見て欲しいです。ええ。

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