ミステリ系ベスト10とWeb2.0

そろそろ年末恒例ベスト10が出そろったようですね。本格ミステリのベスト1は、意外でしたが、よく考えると読んだときの感想はかなり好意的に書きました、私。実際有栖川さんの本にしては面白いと思った記憶が(失礼)。『赤い指』はもう少し善戦すると思ってたのですが・・・。『このミス』は大沢氏のインタビューがよかったです。

週刊文春のアンチテーゼとして「このミス」が生まれ、そこから本格だけを抽出した「本格ミステリ」が生まれ、あるいは「ライトノベル」とか「SF」とか他のジャンルにも波及して現在に至るベスト10ですが、本格はまあジャンルが違うという意味で少しひねった解答が出ますけど、それにしても似たり寄ったりだよなあと思う今日この頃。もう以前から「そろそろ役目が終わったのでは」という話は出てますが(今回も端々にそのようなニュアンスの発言が書かれていますが)、これらって結局Web1.0の世界と同じなんですよね。識者や評論家がその年に読んだミステリの中で面白いものを紹介するという意味で、一対マスの一方向。図書館でも最近Web2.0とかLibrary2.0とかいうキーワードが頻繁に出るのですが、その際に必ず引き合いに出されるのがAmazonです。様々な絞り込み機能を提供してくれる検索方式も、自分の買った本からおすすめの本を紹介してくれる機能も、そして利用者がレビューを投稿したり、アフィリエイトに参加したりという形で、買い手が無意識に売り手になるという双方向性も、図書館が用意した書誌事項から検索して、所蔵を確認するというだけのOPAC(オンライン蔵書目録)と比べて、利用する人が探しているものにたどり着きやすい機能が満載です。

ベスト10を紙媒体で発表することは、一覧性が高いとか、10冊という少数で手を出しやすいという利点のほか、年末恒例行事で「1位予想」とか「これが入ったこれが入らなかったという話題提供」という意味もあるでしょうけれども、読書指南という意味ではどうなんでしょうか。なんとなく、もう何十年も続けてるし、恒例行事になてしまっているから、今更番組内容を変えられず、低い位置で上下する視聴率に一喜一憂しながらも頑張るしかない紅白歌合戦のイメージなのです。今も「このミス」にランクインすれば、売れる(んですよね?)という意味では影響力はもちろん否定できません。ただ、今読んでて面白いと思った本を再度検索すれば、その本を読んだ人が同時に買っている本や、関連する書籍、その本を読んだ人におすすめの本、同じ著者の本など、個人の嗜好に合わせて様々な方向へ導いてくれるサイトが既に存在するわけです。Amazonのキーワードとしてロングテールという言葉がありますが、正にこのロングテールに光を当てるのが「このミス」の役目だったと思うのに、今や選ばれるものもヘッド部分(いや、結局この19年間、本当の意味でのロングテールには手が回っていなかったかもしれないですが)。「へぇ、そんな本もあったんだー」(しかもめちゃ面白い)という楽しみは昔に比べて小さくなってしまったかも。せっかくアンチテーゼとして始まった「このミス」ですから、そろそろ次のステップ(このミス2.0)を考えてもいいんじゃないかなあ。ネットが手を出しにくいのは古いモノ。とすれば、50年前に「このミス」があったら・・・という仮定でランキングを集めてみたりとか・・・?ただ、そういう本ってリアルな世界でも既に絶版になってて手に入らなかったりするんですよね(逆に今も残っているロングセラーは、誰でも知ってる本だし)。図書館がやるならともかく、書籍流通業界にとっては意味ないか。

先日『出版ニュース』で、町の本屋再生策として、「なぜだ!?売れない文庫フェア」という企画を考えたところ、これが意外と好評だったという話が載っていました(久住邦晴「誰もやらない面白いことをやればいい」『出版ニュース』2006年11月下旬号)。そのくらい大きな発想の転換をしないとダメかもしれないですね。

とりあえず「このミス」は来年この20年間の総決算として20位までに入ったすべての作品を対象にベスト・オブ・ベストの投票を行うそうです。まだこれ読んでなかったよ!って本に光が当たると良いですね。ただ、復活した(覆面)座談会で選ばれたベスト10、普段はあまり読まない海外ものも含めてほとんど全て読んでたし、この著者ならこっちのほうが良いとか細かい部分は言いたいことがあるけれど、基本はそれで納得だな〜と思えるベスト10だったからなあ。なかなか難しいですね。

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